七瀬のサイドボーディングに対する考え方とポイントについて、紹介したいと思います。対象は、サイドボードが苦手な人です。あくまで個人の考え方ですので、その点はご理解の上、よろしくお願いします。


少し古めの記事ではありますが、公式記事や晴れるやさんの記事ではこちらがオススメですので、興味がある方はぜひ一度目を通していただければと思います。

公式記事・ゼロからのデッキ構築:ゼロからのサイドボード構築
http://mtg-jp.com/reading/translated/rc/004025/

公式記事・サイドボードの戦略と戦術 その1
http://mtg-jp.com/reading/translated/023523/

公式記事・等速、倍速、あるいは三倍速――サイドボードの戦略と戦術 その2
http://mtg-jp.com/reading/translated/023542/

晴れるや記事・プロプレイヤーの絶対感覚【サイドボード編】
http://www.hareruyamtg.com/article/category/detail/3139



久々の戦略記事ですので、お手柔らかに。……では、参りましょう!


■ サイドボードは、仕事に合わせてチューニングができる職人道具

そもそも、メインデッキに採用するカードは――

―― ビートダウンやコンボデッキならば、自分の動きを明確にするカードであるべきです。「黒単ゾンビ」のような種族ビートダウンならば、相手のデッキに関係なく、優秀なゾンビたちを順番に採用するべきですし、「ティムール霊気池」のようなコンボデッキならば、《霊気との調和》《蓄霊稲妻》《ならず者の精製屋》《つむじ風の巨匠》《霊気拠点》《霊気池の驚異》といったカードたちはデッキコンセプトにマッチした強力なカードですので、相手を問わず活躍が期待できます。(後者デッキはコントロールデッキのようにも振舞える点、非常に評価できます)

―― コントロールならば、より広く相手の動きに対応できたほうが良いでしょう。そういったカードがコントロール側に少ないので、現在のスタンダードではコントロールデッキは苦境なわけです。(《対抗呪文》という、たった2マナで相手のカードをほぼ選ばずに対応できてしまう呪文は、その強さ故に姿を消していきましたよね)

―― ミッドレンジならば、速い展開も遅い展開もバランス良く選べるカードが最高です。《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》はミッドレンジにとって伝家の宝刀というべき強力なPWであり、もう彼の姿を見たくない人も多いことでしょう。自身が攻撃に行って試合を早々に決めることができますし、横にトークンを並べて耐えることもできます。

 「試合に勝利する」という目的遂行のために、よりそれを現実的にするためのカード選択が必要です。職人道具に例えるならば、形さえ合えばマイナスドライバーよりもプラスドライバーのほうがネジは回しやすいですし、1本のメスよりも複数の専用器具を使い分けたほうが手術はしやすいでしょうし、機能豊富なオーブンレンジよりも石窯のほうがピザを美味しく焼き上げられることでしょう。

いわゆる、デッキの「最適化」です。

「少しでも有利に試合を戦うための15枚」の職人道具

―― それがサイドボードだと思っています。


■ サイドボードに向いているカードたち

では、職人道具として選ぶべきは、どのようなカードでしょうか。

《払拭》はインスタントしか消せません。《儀礼的拒否》は無色の呪文しか消せません。しかしたったの1マナで対象のカードを無力化できます。《没収》はアーティファクトしか追放できませんが、流行りの《霊気池の驚異》を根絶やしにできます。非常に専門的なカードです。

《否認》は非生物なら何でも打ち消せますが、相手の妨害をするカードであり、無駄になる可能性も高いカードです。《刻み角》は最低2/2を保証してはくれますが、さすがにそれだけでは強いカードとはいえません。《燻蒸》はすべてのクリーチャーを破壊する強力な呪文ですが、ギデオンなどのPWを前には限りなく無力です。《終止符のスフィンクス》は打ち消し呪文に溢れたコントロールマッチでのみ、絶大な強さを発揮します。

これらのカードはサイドボードとして輝くカードです。

《焼けつく双陽》にはサイクリングがついているので、有効なカードに入れ替えるチャンスがありますが、3マナかかるために複数枚は引きたくありません。メインに1枚は許容できるでしょう。《造反者の解放》はアーティファクトしか壊せませんが1マナサイクリングですので、不要なマッチアップなら気軽にサイクリングすることができます。環境次第で2~3枚メイン採用も問題ないでしょう。これらは特定のデッキに効果的なのにサイクリングがあるおかげで無駄になりづらい、素晴らしく柔軟な呪文です。《精神背信》は3マナ以上の呪文しか捨てさせることができませんが、ほとんどのデッキはそのようなカードをたくさんデッキに入れています。《焼夷流》は特定の生物に強い除去呪文ですが、プレイヤーなどに撃ち込むこともできます。

これらのカードはサイドボードだけでなく、メインボードからでも輝くカードです。

《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》などのPWは、それ1枚だけでゲームに勝利するカードパワーをもっています。1度場に出た《逆毛ハイドラ》を除去コントロールが対処するのは極めて困難です。《不屈の追跡者》はロングゲームを戦うあなたの強力な味方です。

これらのカードはメインではもちろん、サイドボードでも輝くカードです。

それぞれのカードの特徴をよく理解することが、第一歩だと思います。


■ 相手のデッキの速度と目的にあわせて、マナコストの軽い呪文と重い呪文を入れ替える

主にミッドレンジ系のデッキにおいて、共通して言えることなのですが、「デッキの速度」というのは思いのほか重要な要素です。

《キランの真意号》は相当強い機体ですが、カード・アドバンテージという概念からは《不屈の追跡者》のほうがコントロールデッキにとっては厄介なことでしょう。また、軽量呪文よりも、《墓後家蜘蛛、イシュカナ》や《世界を壊すもの》といったパワフルな生物なら、場に降臨するだけで相手の攻勢を止め、試合を決めてくれるかもしれません。つまり、あえて展開を遅くしたぶん、カードパワーの高いものと入れ替えることで、試合を有利に進めようというものです。

「白青フラッシュ」などが取る戦術「ギセラブルーナ」パッケージは、対処されやすい後手番のギデオンをギセラに変え、最終的にはブリセラの変身まで狙っていくという「シフトチェンジ/戦術的スローダウン」です。

「マルドゥ機体」などが取る戦術「除去コントロールへの転換」は、対策されやすいアーティファクトを抜き去り、対策されにくいPWや効果的な全体除去呪文にチェンジすることで、相手の対策カードを無駄にしようという「シフトチェンジ/戦術的スローダウン」です。

こういった「デッキの速度」を変える戦術は相手にとっては対応が難しい場合があります。

一方で、「クリーチャーをすべて破壊する」「カードを3枚引く」などという呪文は非常に強力ですが、マナ・コストが重いのがふつうです。相手のデッキの攻勢が速くて間に合わなければ仕方がありません。《マグマのしぶき》《焼夷流》といった軽量の除去呪文は、ゾンビや機体アグロなどに効果的に機能します。《儀礼的拒否》は1マナ立たせるだけで相手の《霊気池の驚異》を妨害することができます。そして、そういった軽量呪文を、メインデッキの重い呪文と交換することで、相手の速度に対応しやすくするのです。

そして、「デッキの目的」を理解して妨害することも重要です。

1マナ除去である《致命的な一押し》や《マグマのしぶき》といった呪文は、クリーチャーで攻め込むアグロデッキには非常に有効ですが、コントロールデッキでは《精神背信》といった手札破壊呪文のほうが強力です。また、横に複数枚のクリーチャーが並ぶ場合には《光輝の炎》《焼けつく双陽》などの全体除去呪文のほうが有効でしょう。

現在のスタンダード環境で最も対策が難しいのが《霊気池の驚異》ですが、上記にもあげた《精神背信》で手札から捨てさせるだけでなく、そのカードそのものに対策をする《没収》、1回の起動は許してしまうもののアーティファクトを破壊する《刻み角》、そもそも場に出すことを許さない打ち消し《否認》《儀礼的拒否》などは明確なアンチカードです。

軽くて使いやすいカードを重いカードに変えてサイドインすればデッキの速度は上がり、重くて強力なカードを軽めのカードに変えてサイドインすればデッキの速度は下がります。相手のデッキの急所をおさえたサイドボードで、戦いを有利にしましょう。

この「デッキのスピード感覚」は、サイドボードの基本といってもよい「ポイント」です。


■ サイドボードでバランスを崩さないこと

よく見かけるのが、サイド後のデッキのバランスがちぐはぐになっているケースです。例えば今ですと、昂揚デッキがサイド後に上手に昂揚達成できなくなっていたり、機体が相手のサイドを意識しすぎてアーティファクトを減らしたために色事故に陥ったり、コントロール相手に除去を全部抜いたために《氷の中の存在》1枚に蹂躙されてしまったり。

逆に言えば、サイドボーディングが上手な人はそれだけで試合を有利に進めるわけです。

先ほどは「デッキの速度」について解説しましたが、もし「デッキの速度」を変えずにサイドチェンジしたい場合はどうすればよいでしょう?

一番わかりやすいのは、同じマナ域のカード同士を入れ替える、というものです。

《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》と《折れた刃、ギセラ》は同じマナ域で目的の異なるエースです。

《闇の掌握》と《精神背信》は同じマナ域で目的の異なる非生物呪文です。

《光輝の炎》と《苦い真理》は色は違いますが、同じマナ域で目的の異なるソーサリーです。

《暴力の激励》と《否認》は色は違いますが、同じマナ域で目的の異なるインスタントです。

《ピーマの改革派、リシュカー》と《不屈の追跡者》は同じマナ域で目的の異なる生物です。

良い例になっているかはちょっとわかりませんが、対応するカードを決めておいて、目的別で似たようなカードと入れ替えるというのは、非常に安定感のあるサイドボーディングでしょう。サイドボードが苦手だという人は、まずこの段階から始めてみるのがよいでしょう。


■ 15枚に選ぶカードをどれぐらい専門的にするか

例えば、《否認》と《儀礼的拒否》は、どちらも《霊気池の驚異》を打ち消すことができる呪文ですが、前者は2マナかかるものの非生物呪文ならすべて対象にでき、後者は1マナで無色の呪文を打ち消せます。こういったカードを4枚採用したいとき、そのバランスはどうするべきでしょうか?できることなら軽い呪文のほうが優秀ですが、PWなどに対応できる《否認》の柔軟性は魅力的です。

七瀬なら、「《否認》2、《儀礼的拒否》1、《払拭》1」のバランスをオススメします。

↑「払拭どっから出てきたよ!」

理由はいくつかありますが、主な理由は「カードは複数種類用意すべき」ということです。

一度でも《儀礼的拒否》や《払拭》を試合中に見せられれば、それだけで相手は1マナカウンターを意識してくれます。立たせてある青マナ1つに警戒心が芽生えます。GAME2がロングゲームになった場合ほど、相手のデッキの見えている部分と見えていない部分が、GAME3に大きな影響をもたらします。

対霊気池なら、《否認》2、《儀礼的拒否》1の合計3枚を採用し、対コントロールなら、《否認》2、《払拭》1の合計3枚を採用します。2枚の《否認》が柔軟なカードで、3枚目に別な専門カードを用意する、という感じです。

このように、対策カードを複数種類用意するサイドボードを、七瀬は「まるいサイド」「2:1サイド」などと呼んでいます。カード選択の柔軟さが好印象です。

マナ・コストはなるべく軽いものを優先し、同じマナ域に集中しすぎないようにするのがポイントです。(下の例では3マナ域に偏ってますがry)

例 : 「ティムール霊気池」のサイドボード例
1 《マグマのしぶき/Magma Spray》
1 《払拭/Dispel》
1 《儀礼的拒否/Ceremonious Rejection》
2 《否認/Negate》
2 《刻み角/Manglehorn》
2 《不屈の追跡者/Tireless Tracker》
2 《焼けつく双陽/Sweltering Suns》
1 《コジレックの帰還/Kozilek’s Return》
1 《反逆の先導者、チャンドラ/Chandra, Torch of Defiance》
1 《慮外な押収/Confiscation Coup》
1 《終止符のスフィンクス/Sphinx of the Final Word》


逆に、対策デッキを限りなく絞る場合は、《否認》4枚や、《儀礼的拒否》4枚のような選択でも良いと思います。「4、4、4、3」で勝てるなら、そうするのが理想です。このようなサイドを、七瀬は「とがったサイド」「4:3サイド」などと呼んでいます。アグロデッキのような、まっすぐなデッキに向いています。

例 : 「黒緑ビートダウン」のサイドボード例
2 《霊気圏の収集艇/Aethersphere Harvester》
4 《没収/Dispossess》
3 《逆毛ハイドラ/Bristling Hydra》
3 《ヤヘンニの巧技/Yahenni’s Expertise》
3 《領事の旗艦、スカイソブリン/Skysovereign, Consul Flagship》

《逆毛ハイドラ》はコントロールデッキ相手に強く、《没収》は霊気池対策、《ヤヘンニの巧技》はゾンビなどのアグロ対策、 《領事の旗艦、スカイソブリン》はPWを中心としたミッドレンジに効果的です。《霊気圏の収集艇》は対機体などに強いです。

例 : 「ティムールエネルギー」のサイドボード例
4 《焼夷流/Incendiary Flow》
4 《否認/Negate》
4 《呪文萎れ/Spell Shrivel》
2 《反逆の先導者、チャンドラ/Chandra, Torch of Defiance》
1 《不屈の神ロナス/Rhonas the Indomitable》

《否認》《呪文萎れ》といった打ち消しを8枚も採用し、霊気池やコントロールに強く動こうという強い意志が感じられます。《焼夷流》はゾンビやたかり屋を的確に焼けることに加え、最後の一押しに本体(またはPW)に撃つこともできます。

柔軟さはありませんが、特定の目的を達成するための安定感はあるサイドボーディングです。


■ サイドボードは、勝利への近道

今回、サイドボードについての記事を書こうと思ったのは、構築の上でサイドボードに頭を悩ませてるプレイヤーが身近に多かったのが理由です。

メインボード戦で勝利できれば、もう1本勝てばそのマッチに勝利できるため、かなり重要ではあります。しかしサイド後の戦いは最大で2本あります。メイン負けからの的確なサイドボーディングによる勝利は、限りなくそのマッチの勝利に近づいたといえるでしょう。

サイドボードの戦術は広く、デッキの戦術を丸ごと変える「アグレッシブ・サイドボーディング」、特定のデッキを咎める「アンチ・サイドボーディング」など多彩です。珍しいカードをたった1枚採用するだけで、相手の意表をつくことだってできます。

たかが15枚ですが、されど15枚。1枚も無駄にしたくはありませんよね。

サイドボーディングが苦手だと思ったプレイヤーは、ぜひ「デッキの速度」と「デッキの目的」を明確にして、職人道具をイメージして、あなただけの使い勝手のよいサイドボーディングを、効果的に組み上げてください。

では、良きMTGライフを!

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